青山学院大学 理工学部

DEPARTMENT研究室紹介

生体分析化学研究室

指導教員 田邉一仁 教授
西原達哉 助教
テーマ 1.生体内因子を可視化する分子のデザイン
2.体内深部で駆動する薬剤のデザイン
3.細胞治療に貢献可能な新規生体材料のデザイン

研究内容

生命現象の解明と生体内で駆動する新材料の創出には化学の力が不可欠です。我々は有機化学・物理化学・生化学の最新の知見を活かし、未知の生命現象を解き明かす新しい分析手法の開発を目指しています。さらに、紫外線や放射線が作り出す物質の励起状態を操って、生体内部で駆動するオリジナルな機能性材料を創造したいと考えています。

我々の研究室では、まず、新しい分析手法や機能を実現するための分子を設計し、自分の手で合成します(有機化学)。次に、得られた分子の物性を分光学的に調べます(物理化学)。さらに、生きた細胞やマウスを使って機能を評価します(生化学)。学生の皆さんが3年次までに修得した知識を総動員して、新しい手法論・システムを開発していきます。

生体内因子を可視化する分子のデザイン

近年、ケミカルバイオロジーの学術分野では、生体内因子を可視化する分子プローブと呼ばれる機能性化合物が盛んに開発されています。核酸やタンパク質といった生体高分子だけでなく,金属イオンや低分子機能物質などの生体内で働く因子を可視化し、機能を調べようとする試みです。例えば、蛍光色素で標識された生体内因子は生きた細胞や動物に投与されることによって、実際の機能・挙動を容易に調査できるようになります。

我々は、「低酸素」という生体内で特異的に発生する病的組織を可視化することを試みています。低酸素状態の組織は、がんや心筋梗塞等の重大な病変に見られる領域です。すなわち、低酸素状態の組織を可視化できれば、これら病変を検知する診断薬となり得ます。我々はこれまでに、ルテニウム錯体のりん光発光を基盤とした低酸素検知用分子プローブを開発し、マウスに移植した4mm程度のがん組織の検出に成功しています。現在、もっと高感度に低酸素を検出するプローブ分子の開発を目指して、研究を進めています。

体内深部で駆動する薬剤のデザイン

薬剤は、病気を治すために作られた化合物です。しかし、薬剤は必要とされる組織(患部)でのみ効果を示すだけでなく、正常な組織でもはたらく結果、副作用を誘発します。そこで、我々は正常組織では薬効を発現し難い構造をしているが、患部では構造が変化し、薬効発現に至る薬剤(プロドラッグといいます)の設計を始めました。

我々は放射線(X線)を使ったプロドラッグの開発を進めています。すなわち、元は薬効を発現しない化学構造をしていますが、X線が当たると構造が変化して薬効発現に至ります。X線は、健康診断でお馴染みのように、体内深部にも届きます。従って、体内深部の病変部においても薬剤の構造変化、薬効発現を誘起できます。我々はこれまでに、5-フルオロデオキシウリジン、シタラビン等の抗がん剤のプロドラッグ化に成功しています。現在、次世代の医薬品とされる核酸医薬品やタンパク質製剤のプロドラッグ化を目指して研究を進めています。

細胞治療に貢献可能な新規生体材料のデザイン

近年、再生医療や免疫療法など細胞を用いた新たな治療方法に注目が集まっています。ただし、非常に優れた薬効が期待される一方で、コスト面をはじめとして様々課題を抱えているのが現状です。そこで、我々は細胞療法が抱える諸課題を化学の力を用いて解決することを目指しました。

具体的には、標的とする細胞を高精度に認識する生体材料を開発し、標的細胞を高精度かつ安価に回収することを目指しています。標的細胞の回収にあたり、細胞膜表層の分子に着目しました。細胞はその種類ごとに、膜表層に異なる分子を有しているため、細胞膜表層に存在する分子を正確に見分ける生体分子材料をデザインすれば、標的細胞の簡便な補集が可能となります。細胞の他にも、近年、疾病診断の分野で注目を集めているエクソソーム (細胞外小胞) にも本手法を適用し、細胞治療やエクソソームによる疾病診断などへの貢献を目指して研究を進めています。

以上紹介した以外にも、有機合成を使って様々な生体機能分子を作成しています。詳細は生体分析化学研究室のホームページをご覧ください。

参考文献

研究室オリジナルサイト

研究者情報

教授:田邉一仁
学位 博士(工学)
所属学会 日本化学会、日本分析化学会、日本核酸化学会、有機合成化学協会、アメリカ化学会
研究分野 生物有機化学、ケミカルバイオロジー、分析化学
研究者情報について

助教:西原達哉
学位 博士(工学)
所属学会 日本化学会
研究分野 ケミカルバイオロジー、生体関連化学
研究者情報について