数理助教
教員 | 大久保直人 助教 |
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研究内容
可積分系とクラスター代数に関する研究を行っています。非線形な微分方程式や差分方程式は一般にはとても難しいものですが、具体的に解を構成する手法や様々なよい性質をもっている方程式系が知られており、それらのことを可積分系といいます。可積分系の代表的なものとしては非線形な波動を記述するソリトン方程式やパンルヴェ方程式などがあります。
一方、クラスター代数とは2000年頃にFominとZelevinskyによって導入された可換環の一種で、箙(有向グラフ)と変数に対する変異と呼ばれる操作によって定義されるという特徴があります。クラスター代数はローラン性と呼ばれる可積分系と関係の深い性質やルート系との対応など様々なことが知られています。最近ではクラスター代数は数学や理論物理学の様々な分野で現れることが分かっています。
私はその中でも特に可積分系との関係について興味をもって研究しています。例えば、可積分系とクラスター代数では以下のような関係があることが分かってきました。
- 箙を不変に保つ変異と置換の合成により双有理変換を定めることができる。これを用いて離散可積分系の主要な方程式たち(広田・三輪方程式、離散KdV 方程式などの離散ソリトン方程式、q-差分パンルヴェ方程式など)を構成できる。
- 離散ソリトン方程式の相似簡約やq-差分パンルヴェ方程式の退化極限は箙の適当な変形と対応している。
- 箙が含むサイクルに付随する鏡映変換によりワイル群対称性が記述できる。
研究者情報

助教:大久保直人 | |
学位 | 博士(数理科学) |
所属学会 | 日本数学会 |
研究分野 | 可積分系、クラスター代数 |
教員 | 川上拓志 助教 |
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研究内容
特殊関数と呼ばれる一群の関数があります。何が特殊関数かという標準的な定義はないようですが、超幾何関数ファミリー(ガウスの超幾何関数、ベッセル関数、ルジャンドル多項式やチェビシェフ多項式などの直交多項式など)や、楕円関数ファミリー(ワイエルシュトラスやヤコビの楕円関数など)を思い浮かべる方が多いかもしれません。これら2大ファミリーは比較的簡単な微分方程式を満たします。
100年以上前、パンルヴェという数学者は、微分方程式によって定義される新しい特殊関数を発見したいという動機のもと、ある「よい性質」を持った微分方程式を分類し、その結果新しい微分方程式を発見しました。それらの方程式は現在パンルヴェ方程式と呼ばれています。パンルヴェ方程式は上で挙げた特殊関数の2大ファミリーと密接な関係のある、非常に面白い方程式であることが知られています。
私が興味を持っているのは、パンルヴェ方程式及びその一般化です。ここで一般化とは、高次元化(高階化)、多変数化、離散化を想定しています。最近、パンルヴェ方程式と類似した方程式が多くの研究者によって提案されており、私はそれらを線型常微分方程式や線型差分方程式の変形理論の観点から統一的に理解したいと考えています。なぜ線型方程式の変形理論かというと、非線型方程式は分類が難しいですが、その方程式が変形理論から導出できれば非線型方程式を線型方程式でラベリングして分類することができるからです。
最近、相空間が4次元のパンルヴェ型微分方程式をそのようにして分類し、下図のような「退化図式」を得ました([1, 2, 3, 4])。

現在は、高次元のパンルヴェ型差分及びq-差分方程式について、線型方程式の変形理論の観点から研究しています。
参考文献
- H. Kawakami, Four-dimensional Painlevé-type equations associated with ramified linear equations I: Matrix Painlevé systems, to appear in Funkcial. Ekvac., arXiv:1608.03927.
- K. Hiroe, H. Kawakami, A. Nakamura, and H. Sakai, 4-dimensional Painlevé-type equations, MSJ Memoirs 37 (2018).
- H. Kawakami, Four-dimensional Painlevé-type equations associated with ramified linear equations II: Sasano systems, Journal of Integrable Systems, Volume 3, Issue 1 (2018), xyy013.
- H. Kawakami, Four-dimensional Painlevé-type equations associated with ramified linear equations III: Garnier systems and Fuji-Suzuki systems, SIGMA 13 (2017), 096, 50 pages.
研究者情報

助教:川上拓志 | |
学位 | 博士(数理科学) |
所属学会 | 日本数学会 |
研究分野 | 複素領域の函数方程式、可積分系 |
教員 | 松田能文 助教 |
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研究内容
群作用の力学系に興味があります。具体的には、多様体などの位相空間への無限離散群の(微分)同相写像による作用を考えています。可逆な離散力学系は無限巡回群の作用とみなせるので、その一般化を考えているといえます。特に、円周や直線など低次元の多様体への作用に興味があります。
円周への群作用については、回転数の振る舞いに特に興味があります。円周の向きを保つ同相写像の回転数は、周期点の存在など同相写像の力学系的性質を強く反映しています。特に、同相写像の半共役類は回転数により定まります。すなわち、無限巡回群の円周への向きを保つ作用の半共役類は生成元に対応する同相写像の回転数により定まります。従順群の作用についても同様です。
従順でない無限離散群の作用の半共役類は回転数の情報だけでは一般には定まりませんが、これまでの研究で、モジュラー群のフックス群としての作用、およびその5重持ち上げについて、有限個に対応する同相写像の回転数により半共役類が決定される、というある種の剛性を示しました。
現在は、モジュラー群を含む群のクラスである二つの有限巡回群の自由積の作用について同様の剛性を持つものはどのようなものか研究しています。回転数の振る舞いは、近年進展が大きい話題である群作用の離散性と関連しているので、そこへの応用も期待しています。
無限離散群の群論的性質と作用の力学系的性質の関係にも興味があります。これまでに、閉区間の向きを保つC2級微分同相写像のなすポリサイクリック群であって大域的固定点を持たないものはアファイン群の部分群と位相共役であること、トンプソン群Fなど直線の区分的線形同相写像のなすいくつかの群が不変生成(invariably generated)であること(松元重則氏との共同研究)、などを示しました。
研究者情報

助教:松田能文 | |
学位 | 博士(数理科学) |
所属学会 | 日本数学会 |
研究分野 | 位相幾何学 |