教員リレーコラム~知の並木道~

リレーコラム第29回(2014年6月2日)
宇宙から降り注ぐ天啓 - 宇宙線とその誕生の場

文:理工学部 物理・数理学科 准教授 馬場 彩

馬場 彩 准教授
 馬場 彩 准教授

みなさんは、「東京‐ニューヨーク間を飛行機で飛ぶと往復200マイクロシーベルトの被曝をする」という話を聞いたことはありませんか?放射性物質がないのに、どうして被曝するのでしょうか。実は、宇宙からは「宇宙線」と呼ばれる超高エネルギー粒子が降り注いでいます。飛行機は上空を飛ぶので、宇宙線は大気に遮られることなく私たちの体に到達するというわけです。もっと上空、宇宙ステーションなどにいくと、1日で地上の1年分にあたる宇宙線を浴びることがわかっています。宇宙線はどのくらい高エネルギーなのでしょうか?もっともエネルギーの高い宇宙線は、光の速さの99.999999999%というものすごい速さで宇宙空間を飛び交っています。宇宙線はあまりなじみのないものですが、実は宇宙の中でのエネルギー密度は星の光と同程度で非常に大きく、いわば宇宙の基本構成要素のひとつといえます。

宇宙線は1912年、Victor Hessによって発見されました。彼はもともと「環境放射線は岩石から来ているはず。だから気球で上空に行けば、環境放射線は減るはず」と考えて、放射線検出器を手に気球に乗り込みました。ところが上空に行くと環境放射線は増加し、宇宙から放射線が来ていることを発見したのです。この偶然の発見から100年たった現在も、いったいどこで宇宙線がつくられているのか、はっきりしたことはわかっていません。

宇宙線は陽子やヘリウム原子核、電子といった電荷を帯びた粒子です。宇宙空間には弱いながらも磁場が存在するので、その進行方向はローレンツ力によって曲げられてしまいます。このため、宇宙線を生成している天体から地球に到達するまでに進行方向が変わってしまっていて、どこからその宇宙線がやってきたのかわからなくなってしまっているのです。

それでは宇宙線の生まれ故郷はどのようにして見つければよいのでしょうか?もし宇宙線が光を出していれば、光は磁場に関係なくまっすぐ進むので、私たちは宇宙線を生成している天体を「見る」ことができます。実際1995年になって初めて、星が爆発して死んだ後の残骸「超新星残骸」の衝撃波から宇宙線が発する光が発見され、超新星残骸衝撃波が宇宙線の故郷である可能性が出てきました。Hessによる宇宙線発見から実に80年以上の歳月が流れていました。しかし、「本当にすべての宇宙線が超新星残骸で生まれているのか?」「どのようにして宇宙線が出来ているのか?」といった根本的な問題はまだ解決されておらず、宇宙物理学最大の謎のひとつと言われています。青山学院大学理工学部では、超新星残骸での宇宙線の生成は効率が非常によいことなどを発見し、100年の謎を解く一端を担っています。

「宇宙線は天啓である」は、物理学者有馬朗人(元文部大臣)の有名な言葉です。宇宙線は目には見えませんが、空に浮かぶ雲ができるきっかけになる可能性が指摘されているなど、実は私たちの身の周りにも影響を及ぼしている可能性があります。また、人類がどんなに大きな実験設備をもっていても到底つくれないような高エネルギー粒子なので、人類は宇宙線を利用して素粒子物理学を発展させてきました。こんな不思議な宇宙線はいまもあなたの体を通過していっています。

物理・数理学科
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青山学院大学 理工学部 物理・数理学科 准教授
馬場 彩
Aya Bamba
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