教員リレーコラム~知の並木道~

リレーコラム第27回(2013年10月22日)
膨大な電子が示す創発現象の理解を目指して

文:理工学部 物理・数理学科 准教授 望月 維人

望月 維人 准教授
 望月 維人 准教授

世の中には色々な物質があります。金属や絶縁体、半導体に超伝導、磁性体にガラスや液晶などなど。人類は、これらの様々な性質を利用して生活に役立てています。どう言った性質があるでしょうか? まず、電気を通したり通さなかったり、電気抵抗がゼロになったり、一方向にしか電流を流さなかったりと言った「電気的な性質」があります。特に、最後の性質は現代のテクノロジーの基幹となっている「半導体デバイス」として利用されています。また、磁石になって鉄をくっつけたり、くっつけなかったり、あるいは一つの物質の中に磁石としての性質が異なるミクロな模様(磁気ドメイン)ができたりと言った「磁気的な性質」もあります。磁気ドメインは、広くコンピュータの中のハードディスクやメモリ、磁気テープと言った磁気記憶デバイスして応用されています。それ以外にも温めると発電するといった「熱的性質」や、一方向にしか光やマイクロ波を通さないといった「光学的性質」があります。この世の中にある、ありとあらゆる電子機器が、このような物質の性質を利用しているのです。

物質が示すこのような多彩な性質は、実は物質中にある「電子」というマイナス電荷を持った素粒子が担っています。物質中には、ものすごくたくさんの電子がいます。例えば、1円玉一枚(アルミ1グラム)の中には、10の23乗個の電子がいるのです。これは非常に大きな数です。宇宙が生まれてから、およそ10の17乗秒たっていると言われていますから、宇宙が始まってから一秒間に1万個のスピードで電子を数え続けても、まだ数え尽くせません。我ながら、分かりにくい例え話をしてしまいました。とにかく、物質の中には信じられないほど膨大な電子がいるのです。

ところで、電子一個の性質は、量子力学という学問のおかげで非常によくわかっています。もっというと、量子力学の基礎方程式であるシュレジンガー方程式という簡単な方程式をチョイチョイと解くと、一個の電子の性質や振る舞いは立ちどころにわかってしまいます。こういったことは、大学の2~3年生で勉強します。それでは、電子一個の性質がよくわかっているなら、物質の性質を担う膨大な電子の振る舞いも、一つ一つの足し合わせとして簡単に理解できてしまうのでしょうか? 答えは No ! です。

不思議なことに、電子はたくさん集まると、少数の時には思いもよらなかった性質や現象を示すのです。「超伝導現象」はその典型的な例です。温度を下げると電気抵抗がゼロになり、電流が永久に流れ続けることができるこの劇的な現象は、一個一個の電子を見ていたのでは思いもよらなかった、集団の電子が示すスペクタクルです。さらに、電子は、「電気的な性質」や「磁気的な性質」を担う「電荷」や「スピン」と呼ばれる自由度や、電子が物質の中にどのように広がっているかという「電子雲の形状」の自由度を持ちます。これらの自由度は、特に膨大な電子が集団の中で強くからみ合い、相互作用します。その結果、「強い磁石を近づけると電流が流れたり(磁気抵抗効果)」、「温度差をつけると電圧が発生したり(熱電効果)」、「光を当てたり電流を流すと磁気ドメインが動いたり、変化したり(スピントロ二クス)」、「太陽光で発電したり(太陽電池)」といった、摩訶不思議な現象や人様の役に立つ現象が起こるようになるのです。

私のような「理論物性物理学者」は、このような物質中の電子集団が生み出す想像をはるかにこえた未知の現象を、量子力学や統計力学、数値シミュレーションを駆使して、予測・解明したり、設計したりしています。研究への情熱の半分は、純粋な知的好奇心と真理の探究心、もう半分は応用を視野にいれた「人類の役に立ちたい」という熱い思いでできています。「美しい真理との出会い」や「人類が抱える諸問題(エネルギー、温暖化etc)の解決」、「情報テクノロジーの革命」につながる大発見を夢見て、今日も研究を続けています。

次回のコラムは、理工学部 化学・生命科学科 坂本 章先生が「分子からの手紙を読む‐浮世絵の分光分析‐」についてのお話しをリレーしてくださいます。ご期待ください。

物理・数理学科
http://www.agnes.aoyama.ac.jp/phys/index.html
望月 維人 准教授のwebサイト
http://www.phys.aoyama.ac.jp/~mochizuki/index.html


青山学院大学 理工学部 物理・数理学科 准教授
望月 維人
Masahito Mochizuki
▲TOPへ戻る▲

copyright(c)2003-2014 Aoyama Gakuin University College of Science and Engineering All Rights Reserved.