教員リレーコラム~知の並木道~

リレーコラム第19回(2013年1月21日)
ランダムウォークからブラウン運動へ、そして...

文:理工学部 物理・数理学科 教授 松本裕行

松本裕行 教授
松本裕行 教授

硬貨を投げて表が出たら上に1、裏であれば下に1進むという試行を独立に繰り返してできるランダムな軌道をランダムウォークといいます。下の4つの図はマテマティカというコンピュータソフトによるもので、下の方ほど硬貨を投げた回数が多くなっています。


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ここで注意して頂きたいのは、縦軸の目盛です。例えば最後の図では、1000ステップのランダムウォークを考えているのに縦軸には50程度しか必要としません(正確には、高確率で必要ない、ということです)。これは、+1 と -1 が繰り返し現れるものを加えるので多くが相殺される(平均が0である)ことによります。単位時間内に多くの(n回としましょう)硬貨投げをするとき、その時間内にはランダムウォークが √n の2、3倍以内の幅に収まることが知られていて、中心極限定理と呼ばれています。

言い方を変えると、単位時間内にn回硬貨を投げるが、一度に移動するのは 1/√n と小さくすると上手く図が描けることになります。このとき、単位時間内に移動する長さは 1/√n×n=√n となりますから、硬貨投げの回数とともに移動する長さは限りなく大きくなります。これが、下の方の図ほど軌道がギザギザしている理由です。ところで、一度に移動する長さを 1/n とすると、ほとんど0から動かないグラフになってしまいます。これは平均値の0を見つけているとも考えることができ、大数(たいすう)の法則と呼ばれます。

この硬貨投げの回数を大きくした極限を2つ用意して2次元の軌道を考えると、2次元ブラウン運動が得られます。ブラウン運動は、植物学者ブラウンが1827年に顕微鏡観察により発見した運動で、花粉を水に浮かべると飛び出す1ミクロン程度の大きさの微粒子が示す非常に不規則な運動のことを言います。同程度の大きさの微粒子を水に浮かべると、やはり不規則な運動をすることまでブラウンは発見しています。その後のアインシュタインやペランの研究により分子、原子の認識へとつながる重要な発見ですが、ここで考えているのはその数学モデルです。最初に定式化した人の名前からウィナー過程とも呼ばれます。ブラウン運動に関しては、インターネットで検索してみると多くのことが書かれており、シミュレーションも見ることができるので是非一度検索してみて下さい。

このようなランダムな経路に関する解析を行うのが私の専門とする確率論、確率解析です。最近では、ランダムウォークやブラウン運動を用いて経済モデルを作って議論をする数理ファイナンスが、数学、経済学、オペレーションリサーチなどを基礎とする様々な人たちによって研究されています。しかし、ランダムに起きる現象は自然科学においても多くあり、確率論の守備範囲に入ってきます。コンピュータ科学においては、上に述べた大数の法則を逆手にとって、ランダムな運動をシミュレーションして平均を取ることで、ランダムさと関係ない積分の値などを求めるモンテカルロ法という方法が行われています。また、経路の解析という点では、物理学における経路積分とも深い関係にあります。

確率論はこのように多くの分野と関わりを持つ分野です。数理モデルを作るときなど、その基礎の部分にランダムウォークやウィナー過程が用いられています。

次回のコラムは、機械創造工学科 熊野寛之准教授 が「冷たい熱をはこぶ」についてのお話しをリレーしてくださいます。ご期待ください。

松本裕行教授の研究者情報
http://www.agnes.aoyama.ac.jp/phys/faculty/matsumoto.html

物理・数理学科のホームページ
http://www.agnes.aoyama.ac.jp/phys/index.html


青山学院大学 理工学部 物理・数理学科 教授
松本 裕行
Hiroyuki Matsumoto
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