青山学院大学 理工学部

DEPARTMENT研究室紹介

分光物理化学研究室

指導教員 坂本 章 教授
岡島 元 助教
テーマ 分子からの手紙を読む -分子分光学-
1.分子のスナップ写真
2.不安定な分子への応用
3.顕微ラマン分光・ラマンイメージング
4.凝縮相における相互作用のダイナミクス

研究内容

分光学は、文字どおり光をその波長(色)で分ける学問です。もう少し具体的にいうと、光と分子の相互作用によって生じる光の強度やエネルギーの変化から、その分子の構造を調べる学問と定義できます。分子の世界は極めて微細であり、どんな顕微鏡を使っても動きまわる分子の姿を直接見ることは今のところ困難です。しかし、分子のスペクトル(=光のエネルギーに対する強度分布)を解析することで、私たちは間接的に分子の姿をとらえることができます。スペクトルは、言わば、分子が光に託して私たちに発信してくる“手紙”です。その手紙を解読するのが分光学です。

さまざまな環境にある分子から、多種多様なスペクトルを測定すれば、それらの分子の構造やダイナミクスを解明できます。そのために我々のグループでは、独自に開発した(あるいは市販装置を改良した)特徴的な分光システムを数多く駆使して研究を進めています。

分子のスナップ写真

写真1 超高速(フェムト・ピコ秒)時間分解赤外分光システム

暗闇でストロボをたいて写真を撮影すると、ストロボが光った瞬間のスナップ写真が撮れます。分子のスナップ写真、つまり分子の“ある瞬間の”スペクトルを測定して、分子が時々刻々変化していく様子を観測するためには、ナノ(10−9)秒、ピコ(10−12)秒、フェムト(10−15)秒といった超高速のストロボが必要となります。私たちは、そのようなごく短時間しか光らないレーザーを用いて、非常に短い寿命の分子(光励起状態分子など)の測定と解析を行っています(写真1)。

不安定な分子への応用

写真2 不活性ガス雰囲気下での赤外・電子吸収同時測定システム

電荷の移動をともなって機能を発現する物質(有機EL素子や有機太陽電池など)では、電荷をもった状態(大気中で非常に不安定なラジカルイオンなど)が重要な役割を果たします。そのような不安定な分子種の分光測定を非常にきれいな環境(酸素・水ともに0.1ppm以下)の中で行い(写真2)、分子構造の解析を行っています。

顕微ラマン分光・ラマンイメージング

図1 マイクロリアクター内の二液流動状態のラマンイメージ

分子がどこに、どれだけ、どのように存在するかを非接触・非破壊で調べることができれば、物理化学に限らず、幅広い分野での応用が期待できます。私たちは、ラマンスペクトルに基づいて分子の分布や状態を可視化できる顕微ラマン分光・ラマンイメージング装置を開発し、江戸時代の浮世絵の色材の同定や、マイクロリアクター内での流動状態の追跡(図1)、電極表面のラジカルイオン種の分析などのin situ(その場)観測に応用しています。

凝縮相における相互作用のダイナミクス

分子同士あるいは分子内部にはたらく、共有結合よりも弱いゆるやかな相互作用は、液体や固体の構造、溶液の物性、巨大分子の機能に本質的な役割を果たします。これらの相互作用に基づく分子の運動を振動分光学的に直接観測するための「低振動数ラマン分光法」を発展させ、相互作用のダイナミックな変化を追跡する手法を開発しています。例えば結晶の融解・凝固では、結晶特有の格子振動が変化(消失・生成)していく過程が観測されます。

レーザー分光において、レーザー照射下の温度を正確に求めることは難しい問題です。ラマンスペクトルの正と負の振動数領域(Stokes,anti-Stokes領域)を精密に調べることによって、分子振動の「温度」(ラマン温度)を分光学的に決定することができます。そこで、厳密に校正された分光計を用いることで、レーザー照射した点の、その瞬間の温度を、正確に決定する手法を開発しています。これは、例えば準安定状態のように異種の計測を同時・同位置で行うことが難しい系においても応用可能であり、分光学的情報と熱力学的情報とを結びつける力をもっています。

これらを同時に行うことにより、例えば結晶加熱による融解過程の観測を行うことができます。図2はナフタレン結晶の加熱融解におけるラマン温度とラマンスペクトルを示したものですが、このように温度の変化(左)と格子振動の消失(右)とを同時に追跡することが可能です。これは、結晶がどのように融けるか、についての新しい知見を与えます。

図2 ナフタレン結晶の加熱融解におけるラマン温度の変化(左)と格子振動の消失(右)

研究室独自の分光システム

超高速時間分解赤外分光、ナノ秒過渡近赤外ラマン分光、不活性ガス雰囲気下赤外・電子吸収分光、極低温光照射赤外分光、次元圧縮型ラマンイメージング、低振動数顕微ラマン分光、ラマン分光電気化学、赤外円二色性分光、ラマン光学活性分光

研究者情報

教授:坂本 章
学位 博士(理学)
所属学会 日本化学会、日本分光学会、光化学協会、分子科学会
研究分野 物理化学、分子分光学、構造化学、光化学
研究者情報はこちら

助教:岡島 元
学位 博士(理学)
所属学会 日本化学会、分子科学会、日本分光学会、The Coblentz Society
研究分野 物理化学、分子分光学(特に振動分光)
研究者情報はこちら