青山学院大学 理工学部

DEPARTMENT研究室紹介

分子遺伝学研究室

指導教員 阿部文快 教授
テーマ 1.細胞の栄養源センシングとアミノ酸輸送体の制御
2.網羅的機能スクリーニングから得られた高圧・低温増殖遺伝子の機能解析
3.深海微生物の遺伝子解析

研究内容

多細胞生物とは異なり、微生物は周囲の環境に直接さらされるため、外的変化に速やかに適応することが生死を分けます。栄養状態、温度、塩濃度や圧力など、時々刻々と変化する環境をとらえ、生きるために何をすべきか判断し、瞬時に細胞内をリモデリングする。数µm程度の小さな微生物が何億年もかけて作り上げた複雑で巧妙な、しかも堅固で柔軟な生命維持システムの謎に私たちはとりつかれ、その一端を明らかにしようと日々研究を行っています。

分子遺伝学研究室では、酵母菌や深海に棲む微生物が研究対象です。酵母菌と言えば、お酒やパン作りが思い浮かびますが、実は古くから基礎研究で重宝されてきた有用微生物の一つです。一方、地球上のありとあらゆる環境に微生物は棲息し、深海のように暗く冷たく、数百気圧もの水圧にされされた極限領域も彼らのすみかです。そこには好圧性細菌という謎に満ちた微生物たちが暮らしています。では私たちがどのような研究を行っているのか、その一部を紹介します。

細胞の栄養源センシングとアミノ酸輸送体の制御

細胞膜は外界の情報を細胞内に伝達するインターフェイスで、その担い手は膜タンパク質です。環境適応のため細胞が運命の舵を大きく切るとき、膜タンパク質がダイナミックにリモデリングされるのは合理的と言えます。しかし、膨大な膜タンパク質をどうやって特異的に制御しているのか、その仕組みが良くわかっていません。私たちは20種類のアミノ酸の中で最も稀少なトリプトファンに着目し、細胞膜上の輸送体を介した取り込み制御について研究を行ってきました。周囲に過剰なトリプトファンが存在したり、細胞が高水圧や低温などのストレスにさらされると、トリプトファン輸送体であるTat2はユビキチン化され、やがて分解されます。細胞膜上にはeisosomeというコンパートメントがあるのですが、輸送能を発揮しているアミノ酸輸送体はeisosomeから離脱し、ユビキチンリガーゼの標的になることがわかってきました。こうした分子動態について、現在、共焦点レーザー走査型顕微鏡を用いた高分解能の解析に取り組んでいます。

網羅的機能スクリーニングから得られた高圧・低温増殖遺伝子の機能解析

酵母ゲノムには6,000個以上の遺伝子がコードされていますが、少なくとも84個は高水圧や低温といった過酷な環境下での増殖に必須です。そこには機能がまるでわかっていない未知遺伝子が多数含まれています。最近私たちは、7個の機能未知遺伝子産物が協調し、栄養源輸送体を高水圧下で安定化していることを突き止めました。Ehg1は小胞体膜に局在する新規タンパク質で、輸送体と直接相互作用し構造維持を可能にする小胞体シャペロンでした(図1)。その他にも、栄養源センシングを司るTORC1/EGO複合体、活性酸素を無毒化するSod1、圧力センサータンパク質Wsc1を介したシグナル伝達機構などに着目して研究を進めています。

図1.新規膜タンパク質Ehg1の小胞体局在。Sec63は小胞体マーカータンパク質である。

深海微生物の遺伝子解析

海洋研究開発機構(JAMSTEC)の有人潜水挺しんかい6500による潜航調査により、数千メートルの深海底から多数の好圧性細菌が分離されました。数百気圧もの超高圧環境を好む風変わりな生き物ですが、その生存戦略は謎に包まれています。彼らが直面する問題は、貧栄養な深海環境でいかにして生きる上で必要な栄養源を確保するかです。私たちは細胞膜上のペプチド輸送体に着目しました。魚介類の死骸が分解されるとアミノ酸やペプチドが生じます。深海微生物がそれらをいち早く吸収するためには、高圧下で機能を発揮するアミノ酸やペプチド輸送体を持たなければなりません。琉球海溝深度5,110 mから分離された細菌Shewanella violaceaは4つのペプチド輸送体を持つことがわかりました。現在それらの特性解析を進めています。

以上紹介した以外にも、細胞間伝達物質の生理作用、炭素材料の一種グラフェンが微生物に及ぼす効果、さらに海藻成分を分解しバイオマスとして利用する技術革新に関しても研究を行っています。詳細は分子遺伝学研究室のホームページをご覧ください。

参考文献

研究室オリジナルサイト

研究者情報

教授:阿部文快
学位 博士(理学)
所属学会 日本農芸化学会、極限環境生物学会、酵母遺伝学フォーラム、生物関連高圧研究会、日本高圧力学会
研究分野 分子遺伝学、細胞生物学、圧力生理学
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